戦え!アルカイザー

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急性虫垂炎で緊急手術

昨日の事ですが

上司が当直で僕がオンコール(緊急手術等の人手がいる際には病院に呼ばれるが、基本的には休日)という体制

上司から、某大学病院から急性虫垂炎で転院依頼があり、おそらく手術になる可能性が高い旨連絡をうけ、病院に向かいました

症例は15歳の男児、2日前より前医入院し、抗生剤治療を開始していたが、奏功せず手術適応と判断

前医小児外科は緊急手術対応困難であり、当院転院搬送になったそうです

当院でCTを撮ってみると、急性虫垂炎で穿孔しており、周囲に膿瘍形成している状況

前医で保存的治療を開始していたからか、膿瘍自体は局所にとどまっていました

腹腔鏡下虫垂切除術を行いましたが、発症から結構時間が経過していたため、なかなか苦戦しながらも無事手術終了

後の管理は上司に任せて僕は帰宅となりました

 

で、この症例

前医での管理がとてもイマイチだったのでその内容を書いていきます

 

・なぜこのタイミングで転院依頼なのか

急性虫垂炎は大きく分けて2つの治療法があります

手術による外科的治療と、抗生剤による保存的治療です

昔は外科的治療ばかりが行われていたようですが、抗生剤による治療でも治療成績は悪くなく、どちらを選ぶかは症例により異なります

外科的治療は手術を行うため、一時的に治療の侵襲は大きくなり、リスクもありますが、治療期間は一般的に短く済みます

保存的治療の場合はとりあえず手術を回避できますが、治療期間が長くなり、また再発の可能性もあります

一旦保存的治療で炎症を落ち着けた後、数ヶ月後に待機的に手術を行う事で、安全に根治を目指すやり方もあります

僕の経験上、かなり重症な症例でも、保存的治療を行なってうまくいかないことは稀です(というか、僕は経験ありません)

保存的治療を行っている途中で外科的治療が必要になる場合というのは

抗生剤で抑えられないほど炎症が強く重症になった場合(≒汎発性腹膜炎となった場合)、もしくは患者・家族がやっぱり手術を強く希望した場合

くらいだと思います

今回の症例では、どうやら「CRP(炎症反応を示す値)が上がってきたから」というのが、手術が必要と判断した主な理由みたいです

はっきり言って「なめてんのか」という感じです

急性虫垂炎で治療開始後も炎症反応がしばらく高値で続くのはごく自然な経過であり、重要視すべきはバイタルサイン(血圧、脈拍など)や腹部症状などの臨床所見です

一旦保存的治療を選択した以上は、ある程度不安定な経過になるのは覚悟の上で診療を行うべきです

また、抗生剤をより広域なもの(多くの種類の菌に有効なもの)に変更するなど、治療のオプションは手術以外にもあるはずです

それを検討せず、炎症反応が上がってきたから手術、というのはナンセンス極まりないです

経験のない非外科医が外科に手術適応について相談、という状況ならわかりますが、前医の外科医がこの状況で手術適応と判断をしたのなら、その外科医は初期研修からやり直した方がいいくらいです

実際、当院搬送後に抗生剤を変えて保存的治療を継続する、という選択肢もあったのですが

どうやら前医の外科医に「手術が必要です」と説明を受けてしまっており

患者・家族も手術する気満々で来院したため、緊急手術となりました

虫垂炎の手術というのは手術の時期も重要で、発症から日数が経つと手術が難渋する可能性が高くなります

炎症により周囲と癒着するため、手術時間は長くなり、出血量も多くなる傾向にあるからです

治療開始から数日経って緊急手術になる可能性があるため、保存的治療は安易に選択すべきではないのです

 

・なぜ緊急手術ができないとわかっていて入院治療を開始したのか

上記のように、保存的治療を行っている途中で外科的治療に移行する必要が出てくる可能性は(低いですが)あります

保存的治療を開始する際には、患者・家族に「うまくいかなければ緊急手術を行う可能性もあります」という旨の説明は必須です

ということはつまり、緊急手術の対応が可能な状況でなければ、その病院で保存的治療を選択すべきではないのです

治療を開始する前に他院へ転院依頼しておくべきです

はっきり言って前医の対応は患者に対しても当院に対しても無責任であり無礼です

 

・なぜ成人外科ではなく当院(小児病院)に搬送することになったのか

通常、小児外科は16歳未満(以下?)を対象とする外科です

急性虫垂炎は小児でも成人でも起こりうる疾患であり、成人で発症したら成人の外科(消化器外科や一般外科、救急科など)が治療を行います

16歳というのはある程度の目安でしかありません

本症例は15歳とはいえ70kgほどあり、成人男性と同等の体格でした

正直、手術を行うのが小児外科である必要性はありません

前医では小児外科での緊急手術対応が困難だったようですが、成人の外科に話はしたのでしょうか

話をした上で、「15歳以下だから小児外科で治療して、それが無理なら転院させて」という返事をしたのなら

そんな人間は外科医じゃないと思います

治療の途中でうまくいかずに転院、というのはその病院の力のなさを認める行為なので、一般的には避けたいところだと思うのですが

どういう思いで当院に紹介したのでしょうか

また、他にも成人外科の緊急手術対応可能な病院はあるでしょうに、わざわざ距離のある当院へ紹介というのはどういう考えだったのでしょうか

前医小児外科は当院小児外科と同じ大学医局のドクターで構成されているため

紹介しやすいという状況もあるかもしれませんが

そんな事情は抜きにして、患者ベースで判断すべき事案です

 

まあこんな感じで非常にもやもやする状況だったのですが

こんな症例が大学病院から送られてくるという状況が理解できません

僕は沖縄のとある病院で研修を行いましたが、その病院では

離島の診療所に1人で勤務しても問題ない程度の総合力を身につけるよう、研修医を教育しています

都会の医者たちの総合力の無さ、判断力の無さには呆れることが非常に多いです

きっと彼らは

1人の医者

ではなく

医局の構成員

という感覚しかないのかな、と思ってしまいます

失望しています

 

終わります