戦え!アルカイザー

日々のこととか、医療のこととか、社会のこととか

自分の意見で生きていこう、のこと

ちきりんさんの新刊を読みました

なんか新しい本のレビューブログみたいな感じになってますが

感想を書いておこうと思います

 

ちきりんさんの本はシリーズ4作品とも持っていて

どれも自分では思いつかないというか

なんとなく感覚的にそんな気はするけどここまできちんと言語化はできていない

みたいなものが多くて

読んでいてとても勉強になります

新たな発見というか気づきみたいなものばかりで

値段の割にお得感がすごいです

 

で、読んでいる中で

僕が以前に担当した

40代女性の乳がんの患者さんのことを思い出しました

たまたま当院の検査で見つかった乳がん

他院の乳腺外科に依頼(当院は乳腺外科不在なので)して手術をしてもらい、完全に切除はできたものの

術後化学療法をしたほうがよさそうなタイプ(Luminal B、HER2陰性)であることが判明しました

通常なら術後1ヶ月程度で化学療法を開始するところですが

その人はもともと体質的に白血球が少なく

好中球(白血球の中で特に大事な役割を担うグループ)が平時でも1500/μLを切っているくらいでした

この数値は化学療法をするにはかなり危うい数値なので

化学療法を始めるかどうかかなり悩む状態です

 

好中球1500で普段通り過ごしていても何かが起きることは稀だと思いますが

化学療法が始まるとそういうわけにもいきません

我々医療者側が化学療法を始めるにあたって

最も心配な副作用が好中球減少です

(もちろん他にも注意する副作用はありますが)

好中球は人間の免疫の大部分を担う血球なので

これが減少した状態で細菌が体内に侵入すると

対抗する術がなく一気に状態が悪化し、敗血症になり

最悪の場合、死に至ることもあります

化学療法中の好中球数の目安として1500という数字がよく使われますが

(1500以上あれば一応セーフ、くらい)

治療開始前のベースラインが1500を切っているなら

化学療法を始めたらさらに下がってくるでしょう

どこまで下がるかは実際に治療を始めてみないとわかりませんが

がんを治すために治療を始めたら、好中球減少、敗血症で死亡しました、なんて

本人も家族も医療者もやりきれないですよね

 

この方は、手術をした病院から当院に

術後化学療法をお願いします、ということで紹介となりましたが

僕は

化学療法すべきかどうかの判断は難しいが、少なくとも当院で化学療法は行うべきではない

とお伝えしました

40代と若年であり、きっちり治療するなら通常は化学療法を行うべきです

当院より人材も設備も充実していて、有事の際の対応も万全、という施設でなら

好中球減少のリスクを十分理解した上で化学療法を行うのもアリだと思います

しかし、乳腺外科も血液腫瘍内科も不在、ちゃんとした陽圧個室管理も難しい当院で化学療法をおこなうのは、リスクの方が大きいと判断したのです

 

ちきりんさんの本でいうと

僕の判断は「意見」であり

正しいも間違っているもありません

ご本人にも

 

どういう選択肢をとるか、正解はありません

あなたがきちんと自分で調べて、考えて結論を出してください

誰かに言われてそうするのではなく、いろいろ自分で悩むというプロセスが大事です

 

とお伝えしました

ちょっと突き放したような印象かもしれませんが

(もちろん、この文面よりは優しくお伝えしたつもりですが)

こういったシチュエーションではこんな感じで伝えることが多いです

 

結局、この方は手術を行った病院(当院よりだいぶ遠く、通院は負担になる)で化学療法をすることに決めたようです

詳細は省きますが、本当のことを言うと、僕としてはこの選択が医学的にベストではないように思ったのですが

本人もあちこちの病院を行ったり来たりしてかなり悩んでいるようだったし

お金や家族のことなどの周辺事情もあるようなので

本人が自分で出した結論ならいいでしょうということで

特に反対せず治療をおこなってもらうことにしました

 

正解のない問題への対応

やっぱり難しいなと思います

医者をやってるとそういう問題への判断に迫られるときや

患者さんに判断してもらわないといけないときがちょいちょいあります

なかなか頭を悩ます問題ですが

ここをうまいこと対応できる医者が、今後も淘汰されずに残っていくのだろうなと思います

正解のある問題なんて、AIに任せとけばいいので

 

世の中のみなさんは

医者は頭がいい、というイメージがあるかもしれませんが

医者なんて大学受験のときにテストができれば誰でもなれます

医師国家試験なんてほとんど暗記なので、医学部に入る学力があれば普通は合格できます

つまり、医者になるときに試される能力は

正解を出す(選択肢から選ぶ)能力であって

正解の無い問いに対し、自分の意見を表明する能力なんて問われないわけです

医者の能力なんて本当にピンキリなんで

臨床能力のない医者にあたった患者さんは本当に気の毒だなと思います

 

まあとにかく

きちんと自分の意見を考えること

相手の意見を聞いてあげる(意見を作るのを手伝ってあげる)こと

今後も人間が働いていくうえで重要になってくるのかな、と思います

 

終わります